シン・トー

読書とか、日常の中で感じたこととか、空想とか

水族館の清掃員

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水族館のエントランスの大ホールの掃除が主な仕事で、お客さんの帰った夜中に、清掃を行なっている
大ホールには、壁には水槽はない
古い水族館で、床や壁は、清掃員のぼくが掃除しているから綺麗なもんだけど、天井は高く、掃除できないので、よく見ると沢山のいろんな色のシミがあった
しかし、天井は暗いし、丸い窓が2つはめ込まれ、そこからは、外ではなく、どういう仕組みか、水槽になっていて、沢山の魚が見えた
だから、天井のシミには多分ぼく以外は気になるひとがいないだろう

その日は、早く掃除が終わり、大ホールの椅子に座り、天井を見ながら、まったりとした時間を過ごしていた
天井にある窓か見える水槽を眺めていると、たくさんのウナギが泳いでいるのが見えた
ウナギなんていたっけな?と思いながら、どれくらいの時間が過ぎただろう
ぼくは、ボーっつと何も考えずにものを見ていると、時間の感覚がよく分からなくなってしまう事がよくある

どれくらいの時間が過ぎたかはよく分からないが、急に天井のシミが気になってきた
ぼくは思い立って、箒の柄を、長い棒で延長し、天井についたきたないシミを振りはらってみた
擦ってみると、シミは、平べったく丸い塊であり、天井からはらった分が落ちてきた
落とした塊は、えんじ色の大きなエビのような、また虫のようにも見えるものに変化して逃げ惑った
驚いてほうきで追っかけ回すと、また何かに変化した
それは、蒼鉛色の今度は少し平たくて丸っこい塊
すぐには分からなかったが、よく見たらタコだった
あの海にいるタコである
タコは追っかけていると、今度は、タランチュラのような黒くて大きな虫に変化した
恐怖と、一体何なんだ!という気持ちで、走って追いかけながらほうきで何度も叩くと、3度目に当たって、その物体は、気絶したようで、大人しくなった
そして、それはやっぱりタコだった
陸にタコがいるなんて、と思いながら見ていた
まじまじと見ていると、意外と愛らしいタコだった
その時、館長さんが来たので、驚いてそのタコを隅に隠した
館長さんは怖そうだし、僕みたいなバイトには手の届かない存在だと思っていたので、そのタコを隅に寄せて、軽く会釈をした
館長さんは、意外にも優しい笑顔でお疲れ様!と声をかけてくれた
館長さんが去って行った後、タコを見ると、もう逃げていた
ぼくは、なんだか悪いことをしている気分になり、掃除に戻った

水族館では、天井をスクリーンに見立てて、館内の案内表示を投影していた
以前から、きたないシミがある天井に、案内表示を投影している事を僕は気にしていた
投影している時は、全くシミは目立たなかったんだけど、僕は、そこにシミがある事を知っていたので、気になっていたんだ

ふと天井を見上げると、天井全体が光って、まるで美しいイルミネーションになっていた
天井に投影している案内表示はこんなに広い範囲ではなかったと思ったし、いろんな色で、しかも、複雑な幾何学模様から、美しい縞模様など、色々変化していた、こんな案内表示はない
あまりにも視界の大部分が美しい光のイルミネーションで満たされたので、僕は万華鏡の中に入っているかのような気分で夢心地だった
数十分それが続いて、もとの真っ暗な天井に戻った
僕は、そのイルミネーションが何で起こるのかに気づいた
それは、天井くっついているシミで、それらが動きながら発光して、イルミネーションをつくりだしていたんだ
そのいくつかはタコで、そのほかのシミも他の海洋生物なんだろうと思う
深海で、光るイカなどの映像をテレビでみたことがあるが、こんなに幻灯のような美しい光を放つんだと驚いた